イマドキはカメラを持ち歩かずにスマホだけ、という人がかなり多くなっているようですね。センサー技術もソフトも発達して、色合いも自動で調整してくれるスマートフォンのカメラ機能は便利ですが、一方で一眼カメラを使用したことがある人なら絵作りに物足りなさを感じるのも事実。

そんなスマホでの撮影・絵作りを強化できるガジェット、ケンコー・トキナーの EXAPRO フィルタークリップを半年間、使い倒してみました。

これは何をするモノ?

私自身もカメラが趣味とはいえ、自転車の時とか家族連れの時とか、持ち歩きが面倒でスマホでいいや、というタイミングが結構あります。

しかし撮りながら、「ああ……一眼レンズだったらもっとこう……」とか「スマホだと想像してるこういう絵は撮れないから諦めるか……」とか有るんですよ。頻繁に。

そんな不自由さを伴うスマホ撮影に、自由度を補ってくれるアイテムなんです。

単体では使えない

カメラに詳しくない人だと、画像を見てもらっても何に使うものかサッパリでしょうね。このようにスマホのレンズ部分に洗濯バサミ状のクリップで固定して使うものです。

ソフトフィルタのBlackMistN05とのセットを購入。
左が本体。円形のワクにフィルタ用のネジが切ってあります

クリップのリングにはネジが切ってあります。このリング部分に一眼カメラレンズ用のレンズフィルタを取り付けして、写真の雰囲気を変える事ができるアイテムです。

レンズフィルタとは

カメラにあまり詳しくない人向けにレンズフィルタとはどういうものかをアッサリ説明しておこうかと思います。

写真撮影の用語で「フィルタ」というと2種類あるのですが

  • レンズに装着して画質を調整する光学パーツ:レンズフィルタ
  • 撮影して保存された画像を加工するアプリ機能:ソフトフィルタ

要するに「撮る時に使うフィルタ」と「画像に後処理で使うフィルタ」の2種類があり、後者のソフトウェアフィルタはスマホアプリでも結構充実しているのは皆さんご存知のとおりです。

元の画像がテキトーでもソフト的な後処理でなんとかなると思っている人も多いようですが、素材が色飛びしたりしていると加工のしようもないんですよね。それを防ぐために、デジタル現像が当たり前になった現在でも、プロ用機材としてレンズフィルタは当たり前のように使われています。

今回紹介したいEXAPRO フィルタークリップは、そんなレンズフィルタをスマホでも利用できるようにしてくれるガジェットです。

スマホ用49mm レンズフィルタアダプター 長期使用レビュー

スマホ用のレンズフィルタは既にいくつか製品化されているんですけれど、フィルタレンズ自体がはめ込まれていて変更できないものがほとんど。

一眼レンズ用のフィルタが付け替えられるのがケンコートキナーのこの製品の面白いところです。この製品は49mmのフィルタのみ対応します。もちろん、フィルタ径コンバータを使えばもっと大きいサイズのレンズフィルタも使用可能だと思います。(ケラレは出るかも)

49mmのフィルタはミラーレス一眼の入門用レンズでよく使われているフィルタ径ですので、レンズフィルタの中でも比較的量が出回っていて価格も抑えめのサイズです。わが家のSony NEX5nの標準レンズもフィルタ径49mmですので、ガッツリ使いまわしています。

奥からクローズアップ、ND、PL 左についているのがBlackMist

スマートフォンのカメラアプリの設定はProモード(シャッタースピードやISO感度を固定できる撮影モード)で使うのがオススメです。自動モードだと変な補正が入ってしまい、狙った絵にならないことがしばしばありますが、スマホメーカーとしてはこういったものを後付けするのは想定外だと思いますのでしょうがない。

おすすめレンズフィルタ

動画に必須のNDフィルタ

人間用の光学機器で言うと「サングラス」。

昼の直射日光が当たる場所での撮影は白い部分の陰影が消える「白飛び」と呼ばれる現象がよく起こります。YouTubeの料理チャンネルなんかでも、白い器に白いうどんで何も見えない、なんてことがよくありますよね。

夏の昼はISO感度を最低にしても、まだ白飛びすることがしょっちゅうです。

マンホール部分に白飛びしている例

静止画ではシャッタースピードで調整をして陰影が映るように調整するのですけれど、乗り物などの撮影では、シャッタースピードを速くすると絵に面白みがなくなる(速さブレがなくなって速度感とかが出なくなる)ので、NDフィルタでわざと暗くして長めのシャッタースピードで撮影する、といった技術があります。

滝の撮影で白くブワーッ(語彙力)となっているものも、色の濃いNDフィルタを付けてシャッタースピード長くして撮影するワザ。

ブワーッ(写真ACより)

また動画では、シャッタースピードを短くするとカクカクして見えるため、自然に見えるシャッタースピードに制限があります。ISOだけで調整することになるのですけれど、ISO調整は明るいものを暗くする方向にはあまり調整幅が大きくありません。NDフィルタで明るさを減らしてあげると白飛びせずに自然な動きが取れるため、屋外での動画撮影には必須のフィルタになっています。

NDフィルタには暗さが一定な一般タイプと、無段階で変えられる可変タイプがあります。本格的に撮影するなら一般タイプの方がムラがなくて絵作りし易いのですが、何枚も持ち運んで付け替えるのも大変なので、私は可変を使ってます。

メーカーやランクによってムラの有無・色合いへの影響の有無が色々あるようですが、フィルタも沼が深いのであまり悩まないようにしています。

風景写真におすすめのPLフィルタ

こちらも人間用で言うなら「偏光サングラス」です。

効果は、乱反射を抑える……というと難しい感じがしますが、要するに照り返しやガラスの映り込みを抑えることが出来るレンズフィルタです。釣りをする人にはおなじみなんじゃないでしょうか。水面の反射がなくなって魚影が見えるアレです。

光沢のある植物を撮影するときや、建物・自動車などガラス面の映り込みが多い時などに活躍します。薄曇りの日や晴天のお昼ごろに山の風景を撮ると、葉っぱの緑が黄白色寄りに映ることが多いんですが、PLフィルタでキリッとしたグリーンを撮ることが出来ます。

料理撮影には照り感がなくなってしまうのであまり使わないんですが、ラーメンの食レポ動画を作る時に、照明で背脂とモヤシがギラギラしてしまって見えない時などに活躍してくれました。

二郎専用フィルタ

PLフィルタはレンズフィルタの中では少しお値段が高めです。

クローズアップレンズ|マクロフィルタ

これはちょっと変わり種ですが、人間用で言うと「虫めがね」を追加するフィルタ。カメラ用語でいうところのマクロレンズ化ができるフィルタです。

スマホは元々けっこう近寄れる方ですけれど、小さな昆虫や花などの撮影にはもっともっと寄りたいっていう時ありますよね。そんな時にクローズアップレンズを着けることで、寄れる距離を縮める事ができます。

このクローズアップレンズというフィルタ、本来の目的ではない使い方でスマホではかなり使えます。虫めがねでピントが合っていない遠くのものを見るとものすごくぼやけて見えますよね。これを利用して、スマホ撮影でも「背景ボケ」を作る事ができるんです!

「スマホ撮影でもボケてる写真あるじゃん」という方、たしかにありますね。よく見るとボケ味風ではあるんですけどデジタル処理なことがわかるかと。

つぼみの右上あたり、ブレのような不自然なボケが出ている

スマートフォンのレンズは構造的に薄すぎてボケを作ることが難しいため、撮影後にソフトウェア的にボケを作っています。最近のiPhoneは撮影しながら複数レンズを使って距離を測定し、ソフトウェアフィルタで距離から適切なボケ具合を調整してボケ味のシミュレーションをして合成しているそうです。そんな最新技術でも細長い物体の撮影では不自然なボケになる事が多くて、こういった枝物は苦手みたいです。

一眼に広角レンズ+クローズアップで寄った例
上部の焼き鮭が自然なボケ

動画などで背景の人物などの映り込みを極力抑えたいときにも有効です。後から編集でぼかすのが意外と時間がかかる作業ですからね。画角は広角なのにボケ味があるという、ちょっと変わった絵作りも出来ます。

寄れる距離が何種類もありますが、用途と好みで最適な度数は変わりますし拡大率も大きいほど画像のふちが歪みます。私の用途の場合はあまり歪むのも問題なのでNo2くらいが実用的かなと。

複数枚を重ねることも出来ますので、物足りなくなったらNo3も買い足して見ようかと思っています。

ソフトフィルタ

光源をふんわり光らせ、全体に柔らかい絵にしてくれるフィルタです。夜景やキラキラしたものなどを撮る時には映え感が出ます。

BlackMist No.5 逆光の風景写真

人物を撮る際にも有効で、強めの光源で撮ると毛穴や薄いシミが目立たなくなります。美容系インフルエンサーはスマホのレンズにリップクリームを塗ってこういう絵にしている人もいるそうですが、レンズに悪影響だと思いますのでレンズフィルタを使ったほうがいいでしょうねぇ。

人によっては便利かもしれない雰囲気系フィルタ

その他、あるとかっこいい絵が撮れるフィルタですが、これはソフトウェアフィルタでも充分かもしれません。というかそこまで拘るなら一眼(ry

トワイライトフィルタ

朝焼け・夕焼けをきれいに撮るためのフィルタです。フィルタ無しで朝焼けを撮るとカメラセンサーの性質上、太陽に感度調整が合ってしまい、肝心の空の色はグレーになってしまいます。これを撮影時点で調整してくれるフィルタです。日の出用の赤系と日没用の青系があります。

私は使ったことがないのでケンコーのサイトで作例を見てみてください。スマホで風景を撮る人は少なくないですし、日本海側の日没・登山でご来光とか、感動的なシーンを最高の色で撮影できると思いますので、旅のおともにいいのかもです。

クロスフィルタ

光源・テカリが星型や十字形になるフィルタです。一般的にはイルミネーションの撮影などに使われる事が多いフィルタです。これも私は使ったことが有りませんのでケンコーのサイトで作例を見てみてください。

オモシロ系フィルタですが、美容系の女性インフルエンサーはラメメイクの自撮りにも使うんだそうですね。私には縁のない世界……。

で、フィルタークリップはおすすめ?

めっちゃオススメです!

すでにカメラ趣味がある人はもちろん、スマホでもっといい絵を撮りたいと思っているカメラ未経験者にも超オススメです。

2023年現在、新しくデジイチを買おうと思うと初期投資が20万近くなってしまってカメラ趣味がかなり遠いものに感じますけれど、まずはスマホカメラのProモード+レンズフィルタから入るのもアリだと思いますよ。

将来的に一眼レフorミラーレスを買った時にも、シャッタースピードやISOなどの知識はそのまま活かせますし、レンズの径が合えばレンズフィルタの資産も活かせます。

運用には工夫も必要

スマホカバーは薄いほうがいいかも

私はスマホはOPPO Reno5Aに手帳型カバーを使用しています。挟み込んで固定する事には支障はありませんでしたが、レンズからフィルタまでの距離が長くなることでデメリットがあります。

厚さが加わる分、画面側ガラスにも負荷がかかってそうです

距離が長くなると、使用するレンズフィルタの厚さによってはケラレ(四隅にレンズの影が映る現象)が出ます。またイマドキのスマホカメラはマルチレンズが当たり前ですので広角や望遠を切り替えるとレンズの中心がズレます。

距離が短いと影響は少ないのですが、カバーの上から装着した場合はレンズ切替のたびにケラレを気にして位置調整する必要がありました。またPL+クローズアップ+ソフトフィルタのような3段だと盛大にフレームインします。

スマホ本体を外して直接着けるか、背面の厚さがレンズと均一になるような樹脂バンパーで使う方が扱いやすいのかなと思いました。

そこそこかさばる

クリップ側が画面を押し付けてしまう構造ですので、スマホにつけっぱなしにするようなものではありません。都度外して持ち歩いています。

一眼カメラと比べるほどではないですが、このクリップ自体が3次元的な構造なので地味にかさばります。スマホだけの時の気軽さがちょっと薄れますね。

ダイソーで売っているコンパクトデジカメ用ケースに、ダイソーの小銭入れに収納したレンズフィルタと一緒に入れて持ち運んでいますが、ポケットに入れるとかなりモッコリするサイズです。

最近はボディバッグを持ち歩いてるのでそれに突っ込んでいますが、持ち物が多い時は持って行かないこともあります。

「さっと出して撮る」は出来ない

その都度フィルタのセッティングをしたり、Proモードに切り替えてISO調整して……という作業が出てきますので、「スマホをさっと出してパシャッ」という手軽さは犠牲になってしまいます。

普段使うフィルタ構成が決まってくると、クリップにフィルタをつけっぱなしにして収納しておくことで工程は減らせます。

しかし、構成や周辺光の状況によっては、食事を撮っているのに夜景モードになったりと、スマホの自動調整が暴走しがち。Androidの標準カメラアプリは起動のたびに自動モードに戻るのでProモードへの切り替えと調整がめんどくさいな、と思うこともしばしばです。

写真現像アプリで有名なAdobe Lightroomのスマホ版は、ホワイトバランスなども含めて前回の撮影設定を記憶してくれますので、最近はこちらを使っています(クラウド保存を使わなければ無料です)。