ミラーレスカメラは構造上熱に弱く、動画撮影時には熱停止することがよくあります。というか頻繁にあります。ほぼ毎回です。食レポ中にカメラが止まった時の重力加速度を超える勢いで下がるテンション……これを解消できそうなUlanzi カメラヒートシンクを先行予約で購入しましたので、早速効果の程を測定してファーストインプレッションをご紹介します。
Ulanziってどんな会社?
カメラ用アクセサリー総合ブランド
Ulanziは香港に本部を置く撮影機材アクセサリーブランドです。
中華ブランドと侮りがたい精度と、「こんなの欲しかった!」の隙間アイディア商品が特徴のメーカーです。あと安い(重要)。
精度は結構よいメーカー
このクーラー以外にもアルミミニ三脚、ミニ油圧雲台、アルカスイス台座、GoProマグネット式ネックレスマウント、マジックアームなどを多数所有・使用していますが、どれも結構かっちりしてるんですよね。アルミ製品の加工に強いイメージです。
大手メーカーには申し訳ないんですけど、ライト勢ホビーユースなら「Ulanziで充分」となっちゃう製品もかなり多いです。
Ulanzi カメラヒートシンク
で、コレは何をするもの?
ミラーレスカメラは伝統的に動画撮影もできるモデルがほとんどです。画質スペック的には家庭用では充分満足できるレベルなんですが、冒頭で述べた通り、熱停止が頻繁に起こります。静止画の撮影だけなら滅多に起こらないんですけどね。
熱停止とは
カメラに限らず電子機器は高音になるとコンデンサやトランジスタなどが壊れてしまうので、壊れる前に高温を感知して自主的に停止する、いわば防御機構が熱停止という現象です。
わが家のNEX 5N(2011年製)は動画撮影すると15分くらいでダウン。その後5分くらいは起動もままならなくなります。職場で使っているα6300(2016年製)でも試してみましたが20分くらいでダウン。スペック向上で少しは伸びていますが、子どもの学芸会の撮影でもちょっと時間的に不安なくらいですね。
アナログな対抗策として
- オートフォーカスを使わない
- 光学ズームや美肌モードなどを使わない
- ディスプレイOFF
- 冷やしたバッテリーを複数用意して途中で差し替えする
など、いろいろなテクニックがありますが、録画時間が5分伸びれば良い方です。
私のSonyNEX5nの場合は熱停止してしまったらバッテリーを外してカバーは開けっ放し、背面ディスプレイを開放、レンズも外して放置しています。10分程度で不安定ながら録画は再開できます。 しかし、食レポ中10分中断は持て余しちゃいますので飲料を追加で頼んだりしてますが、その間に酔って出来上がってしまい、動画の後半がグダグダになるのが悩みのタネです。
動画撮影に特化したSonyのFXシリーズは標準でクーラーファン付きのモデルもあり、コンディションによっては連続撮影1時間も可能とのこと。しかし本体が非常に高価ですので、私のような底辺YouTuberにはなかなか手を出せる代物ではありません……。
そこで登場したのがこの「Ulanzi カメラヒートシンク」でした。
名前は「ヒートシンク」だけど
ヒートシンクというと一般的にはCPUやトランジスタなどに直接貼りつけるアルミ製の格子状の放熱板のことを指しますので、「外付け空冷ファン」と言ったほうが正確でしょうね。
カメラ内部は光が漏れ込んでこないように密閉されています。さらにミラーレスカメラは小型・軽量を目指して電子パーツが隙間なく配置されています。空冷するためには隙間が必要=大型化してしまうので、ミラーレスのコンセプトと本体の冷却は両立が難しいのです。
ミラーレスカメラで一番発熱するのは光を受像するセンサーと画像処理するCPU周辺、つまりレンズの裏側に当たる部分です。ほとんどの機種で液晶ディスプレイがついている場所に当たりますが、可動式ディスプレイの機種なら裏から直接冷やす事ができる位置でもあります。
ここに空冷ファンを付けちゃおう!というダイナミックな製品です。
対応機種
Ulanzi公式で表記している対応モデルは以下の通り。
Sony | ZV-E1 |
ZV-E10L | |
α7 IV | |
α7S III | |
α7C | |
FX30 | |
α6700 | |
Cannon | R8 |
R7 | |
R6 Mark II | |
R5 | |
90D | |
富士フィルム | XS10 |
XT4 | |
X-H2s | |
X-S20 |
カメラ背面の液晶ディスプレイを動かせるモデルが対応します。この表以外のカメラでもディスプレイ背面部分が平坦で、サイズが合えば取付可能だと思います。
本体サイズは実測でW78 x H53 x D15mm(奥行きは吸盤含まず)。カラーはブラック/シルバーの2色展開で、本体は公称と同じく58gでした。サイズも重さもソフトケースのタバコと同じくらいの感覚です。(数年吸ってないのでうろ覚えですけど…)
Sony NEX-5Nへインストール
では愛機のSony NEX-5Nへ取り付けてみようと思いましたが、この機種はディスプレイを跳ね上げても80°の縦チルトだけで完全には開かないんですよね。
ちゃんとハマるかどうか一抹の不安を感じつつ、仮置きしてみるとこんな感じに。
若干ディスプレイに引っかかって10mmほどはみだし、アルカスイスのクイックプレートに干渉して斜めになってます。下側の吸盤は全くキャッチしていないのですが、吸盤もよくくっつきますので上側の吸盤だけでも大丈夫そうな吸着力。ヨシ!
写真を見てもらって分かるとおりディスプレイはかなり使いづらくなりますが、NEX5Nの場合は本体から離したこの状態で背面へ向けることも可能です。ファンを塞ぐ形になってしまうので冷却効果は落ちると思いますが。
それと会社のα6300でも試してみましたが、そちらはディスプレイを保持するアームが干渉してしまって、無改造では設置不可能でした。外部ディスプレイオンリーにするくらいの覚悟がないと使えませんな……。購入の前に背面ディスプレイがどのくらい開くか計測した上での購入をオススメします。
画面表示
ボタン長押しで起動します。小さな液晶画面上にはバッテリのゲージと 012 の風量表示。アンダーバー付きの0(無風)が現在の風量です。
CAMはカメラ温度を表しています。温度は赤外線計測っぽいです、手のひらに置くと33℃を示していました。ファンを回さない状態でカメラの温度計としても使えないかな?と思ってましたけど、風量ゼロだと5分でオート電源オフになりました。
充電する
この製品の冷却機構はファンを回しての空冷、つまり電力が必要ですので内蔵バッテリーをUSB Type-Cで充電して使用します。バッテリ容量は200mAh、充電時間は2.4Aの充電器を使用して0%からフル充電まで20分。意外とかかりますね……。まぁカメラ本体の充電に比べれば短いですが。
基本は内蔵バッテリ駆動なので給電不要ですが、カメラに取り付けたままアクセスできる位置にUSB端子があります。長時間使用や充電不足の場合もモバイルバッテリーなどから給電しながらの動作も出来るように設計されています。優秀。
充電中・給電使用中はファン自体も熱を持つようですので、カメラ温度表示はだいぶ高めで出る模様です。
カメラへフィルムを貼る
ファンは吸盤でカメラへくっつけるのですが、一般的にディスプレイの裏部分はサラサラの梨地になっているので、そのままでは吸盤はくっつきません。表面がツルツルの粘着シートが付属していますので、それをディスプレイ裏に貼り付けします。
NEX5Nは対応機種じゃないですので、シートが余ります。
余っていても剥がれたりホコリを拾ったりしそうでしたので、NEX5Nの形状に合わせてカッターでサクッと切り取ってしまいました。
吸盤で設置!
本体裏に吸盤が付いていますので、先程貼ったシートの上にクーラーファン本体をぺとっと付けます。
使った感じそこそこ強力な吸盤のように感じますが、動きのあるカメラワークでは不安もあります。ホコリがついているとすぐ取れそうなので、ウェットティッシュなどで軽く拭いてつけるのが良いと思います。
効果測定
さて、実際使えるのかどうか?お待ちかねの効果測定のお時間です。
測定① 冷却効果
直接カメラ内部の温度を計測することができないため、連続撮影時間で計測してみたいと思います。測定条件は秋~春の飲食店での食レポを想定してセッティング。
- Sony NEX5N
- 室内で24℃、無風
- 日光なし(夜間)
- カメラは純正バッテリー満充電
- ISO1600 AFあり
- FHD 24fps、AVCHD形式で保存
- その他外部機器接続なし
NEX5Nは熱停止温度の設定がないため、後続のαシリーズでの「自動電源OFF温度」設定が「標準」の時と換算してもらえると同等かとおもいます。コヤツは古い機種でスペックが低いので現行機種ならもっと長いはずですが、比率で見てもらえるとよいかと思います。
冷却効果の測定結果
冷却なし | 22:50 |
低速モード | 34:10 |
高速モード | 75:15 |
それぞれの計測の間隔は30分の冷却時間を設けて、ヒートシンクの画面で25℃まで下がったことを確認の上で次の計測を行っています。
思った以上に時間が長くなりましたので検証時間の都合で1回ずつのテストになりました。
NEX-5Nは連続撮影最長29分なので、30分以上のものは録画再スタートして合算したもの。高速モードではカメラのバッテリが先に尽きたのでバッテリ交換しての時間です。
回数が少ないので参考値にはなりますが、低速モードで倍近く、高速モードでは4倍以上も伸びているので、これは効果有りと判断してよさそうですね。
ちょっと意外だったんですけれど「冷却なし」は熱伝導フィルムを貼っただけの状態なんですけど、普段より長時間録画出来るようになっていたんですよね。ファンの設置が難しい機種でも、スマホ用などで売られている熱伝導フィルムだけでも効果あるのかもしれません。
ネットで見つかったのは↑これくらいでしたけど、気になる方はお試しあれ。
測定② 動作時間
公称だと低速モードで70分・高速モードで60分連続使用可能とのこと。フル充電から実測してみます。冷却効果のときと同じく
- 室温24℃
- 無風
- 日光なし
の条件です。計測の間隔は充電+冷却で60分取っています。
動作時間の測定結果
高速モード | 58:34 |
低速モード | 72:30 |
こちらも1回だけのテストですが概ね公称値どおりです。
高速モードの場合はファンの方が先に電池切れになっちゃいます。1日に2本撮り・3本撮りみたいな使い方だと足りないかもしれませんが、充電もそれなりに速いので、移動中にモバイルバッテリーからで補給できそう。
外からの風の有無でも消費電力は結構変わると思いますので、屋外使用だともうすこし短くなるかもしれません。
測定③ ファンノイズ
撮影中は回っているのかどうかわからないくらいのファン音量なんですけど、編集中にあとから気になったりするので、駆動時の音量も測ってみました。ヘッドフォンで編集していると機械の動作音や風切り音などノイズが結構気になりますし、視聴者目線でも機械ノイズが多い動画って不快になって途中で止めちゃいますもんね。
普段の撮影の時はTascam DR-07という高感度のレコーダーも使用しています(これもまた古い機種ですけど……)ので、カメラ本体とDR-07の音量を比較してみます。写真撮り忘れたんですが配置はこんな感じ。
通常の録音時は、音源の方向を揃えたいのでカメラとレコーダーは横15cm程度の距離で平行にセッティングするため、横の音はあまり拾わないんですが、今回は計測目的なのでカメラに向けてのセッティングで録音しています。
測定にむらが出ないように入力ゲインは最大に固定して録音しました。動画編集ソフトDaVinci ResolveのサウンドコントロールパネルFairlightで音量を比べます。
ファンノイズの測定結果
本体mic | DR-07 15cm | DR-07 30cm | |
低速モード | 55dB(+20dB) | 18dB(+6dB) | 16dB(+4dB) |
高速モード | 64dB(+29dB) | 23dB(+11dB) | 24dB(+8dB) |
停止状態(環境音) | 35dB | 12dB | 12dB |
高速モード+本体マイクの64dBは走行中の自動車の車内と同じくらいの音量ですので、ヘッドホンでなくても聞こえるレベルのノイズになってしまいました。
一方で、短距離でも音の減衰が大きいところから察するにノイズの音圧自体は小さい模様です。外部機器で別録りするか指向性のガンマイクなどを使ったほうがよさそうです。
専門的な話になりますがノイズ周波数は思ったより低め。回転数も一定なため、編集ソフトのノイズリダクションで消すには比較的簡単だなと感じました。
Ulanzi カメラヒートシンクのまとめ
10分くらい伸びれば御の字と思っていたのですが、これほど撮影時間が伸びたのは嬉しい誤算でした。ミラーレスカメラで長時間撮影する機会が多い人がどのくらい居るのかを考えると結構ニッチ商品な気がしますけど、Vlogの人には天からの恵み並みにいい製品、という感想です。
構造上、つけっぱなしだとディスプレイが閉じれないのはしょうがないところですね。しかし持ち歩く価値があると感じますので、私の撮影セットには追加決定です。
Ulanzi カメラヒートシンク気になった所
ここまで読まれておわかりの通り、機能は申し分ないと思います。ただちょっと気になったことがありまして。
ディスプレイ裏に貼るシートは2枚付属しているんですけれど、3台以上のカメラで使いたい場合はどうしたら良いのかなと。チュートリアル動画では「シートを剥がしても跡が残りません」ってアピールしてるんですけど、剥がしたら使えないのでは……。
ちなみにこのシートは単体では販売されていない模様です。スマホの冷却シールで、表面がツルツルしているものがあれば使えそうです。いいのが見つかったらストックしておこうかと思います。
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