最近お仕事が忙しくてまともに運動する時間も取れませんでしたので内臓脂肪がアレしてアレです。ほらアレ。
自宅の体脂肪計は内臓脂肪の量も推測してくれるものなんですけど、それがMAXで振り切れてしまったので危機感を覚えています。
というわけでまたラッキングしてダイエットしようかと思っています。
続きを読む: ラックサックマーチのカロリー計算ツール作りましたそもそもラッキング/ラックサックマーチとは
ラッキング(Rucking)は、荷物を背負って歩く軍事訓練由来のエクササイズで、通常のウォーキングの2〜3倍のカロリーを消費すると言われています。
重量物を長時間運ぶため持久筋のトレーニングに最適です。特に脊柱起立筋群や腹横筋など通常のトレーニングで鍛えにくい体幹や、ハムストリングスや大臀筋などの足腰に関わる筋群にかなり強い刺激を与えることが出来ます。
しかし、スポーツやトレーニングとしてあまり認知されていないので、スマートウォッチやアクティビティトラッカーにも項目がない、つまり「実際にどれくらいカロリーを消費しているのか?」を正確に知るのが、ランニングやサイクリングなどと比べて難しいのが現状です。
そんなわけでカロリー計算機を作りました
私としても「やってる実感」が欲しかったので、こんなものを作ってみました。

以前の記事で紹介していたものはintervals.icuの中でしたがこちらは単体で動作します。後述する「パンドルフ方程式」に基づいた計算機です。
通常のウォーキングの場合のカロリー消費量もあわせて表示されますので比べて見てもらえれば。
使用上の注意
- 地形タイプ: 軍隊の行軍での計算なのでここで書かれている「柔らかい雪」というのは「山岳地帯の積雪地でツボ足で膝まで埋まる」ような状況だと推測します。青森県の冬でも「固い雪」くらいだと思います。
- 個人差: 実際の消費カロリーは、年齢、性別、体力レベルにより±15〜20%変動する可能性があります
- 疲労の影響: 2時間以上の長時間では疲労により10〜15%増加する場合があります
- 装備の配置: 背中中央の荷物を想定しています。足首や太ももの重りは3〜7倍のコストがかかります
- 気温の影響: 極端な暑さや寒さは代謝率を変化させる可能性があります
ということでご活用ください。
以下マニア向け
パンドルフ方程式とは
パンドルフ方程式は、1977年にPandolf、Givoni、Goldmanによって開発され、2003年にSanteeらによって更新された、荷物運搬時の代謝コストを予測する方程式です。
米国陸軍環境医学研究所(USARIEM)での数十年にわたる研究に基づいており、軍事訓練や運動科学の分野で標準的に使用されているそうです。
方程式の構造
$M = 1.5W + 2.0(W + L)\left(\frac{L}{W}\right)^2 + \eta(W + L)(1.5V^2 + 0.35VG)$
各変数の意味:
- $M$: 代謝率(ワット)
- $W$: 体重(kg)
- $L$: 荷物重量(kg)
- $V$: 歩行速度(m/s)
- $G$: 傾斜(%)
- $\eta$: 地形係数
計算式の3つの要素
1. 基礎代謝コスト:$1.5W$
これは立位時の基礎代謝を表します。体重に比例して増加する最も基本的なエネルギー消費です。
例: 体重70kgの人 → $1.5 \times 70 = 105$ ワット
2. 荷物運搬コスト:$2.0(W + L)\left(\frac{L}{W}\right)^2$
この項がパンドルフ方程式の核心です。荷物の重量だけでなく、体重に対する荷物の割合(荷重比)の二乗が含まれているため、相対的に重い荷物ほど非線形にエネルギー消費が増加します。
重要なポイント: 同じ15kgの荷物でも、体重60kgの人と体重90kgの人では、軽い人の方がより多くのエネルギーを消費します。
計算例:
- 体重70kg + 荷物15kg: $2.0 \times 85 \times \left(\frac{15}{70}\right)^2 = 9.8$ ワット
- 体重70kg + 荷物30kg: $2.0 \times 100 \times \left(\frac{30}{70}\right)^2 = 36.7$ ワット
荷物を2倍にすると、この項は約3.7倍になります(二乗関係のため)。
3. 移動コスト:$\eta(W + L)(1.5V^2 + 0.35VG)$
この項は、速度と傾斜、そして地形の影響を表します。
速度要素 $1.5V^2$: 速度の二乗に比例するため、速く歩くほど指数関数的にエネルギーが増加します。
- 時速4km(1.11 m/s): $1.5 \times 1.11^2 = 1.85$
- 時速6km(1.67 m/s): $1.5 \times 1.67^2 = 4.18$(約2.3倍)
傾斜要素 $0.35VG$: 速度と傾斜の積で表され、5%の上り坂は平地と比較して約33%多くのエネルギーを必要とします。
地形係数($\eta$):
- 舗装道路・トレッドミル: $\eta = 1.0$(基準)
- 砂利道・未舗装路: $\eta = 1.2$
- 草地: $\eta = 1.3$
- トレイル・藪: $\eta = 1.5$
- 固い雪: $\eta = 2.0$
- 柔らかい雪: $\eta = 3.0$
- 柔らかい砂・沼地: $\eta = 3.5$
ワットからカロリーへの変換
代謝率(ワット)を消費カロリー(kcal)に変換するには、以下の係数を使用します:
$\text{消費カロリー(kcal/h)} = \text{代謝率(W)} \times 0.8604$
この係数は、$1\text{ワット} = 0.8604 \text{ kcal/h}$ という熱力学的な換算に基づいています。
現代的な補正係数
2017年から2022年の最新研究により、元のパンドルフ方程式は現代の装備や歩行パターンに対して12〜33%過小評価することが判明しました。
そのため、この計算機では以下の補正係数を自動適用しています:
- 荷重比30%以下: 1.15倍の補正
- 荷重比30%超: 1.25倍の補正
参考文献:
- Drain et al. (2017). “The Pandolf equation under-predicts the metabolic rate of contemporary military load carriage.” Journal of Science and Medicine in Sport, 21(11), 1150-1154.
- Looney et al. (2022). “Modeling the Metabolic Costs of Heavy Military Backpacking.” Medicine & Science in Sports & Exercise, 54(4), 646-654.
通常のウォーキングとの比較
計算機では、通常のウォーキング(荷物なし)との比較も表示しています。これは速度に応じたMETs値(代謝当量)を使用して計算されます。
METs値の基準
| 速度 | METs値 |
|---|---|
| 3.2 km/h未満 | 2.8 METs |
| 3.2〜4.0 km/h | 3.0 METs |
| 4.0〜4.8 km/h | 3.5 METs |
| 4.8〜5.6 km/h | 4.0 METs |
| 5.6〜6.4 km/h | 4.5 METs |
| 6.4 km/h以上 | 5.0 METs |
傾斜がある場合は、5%ごとに約0.8 METsを加算します。
カロリー計算:
$\text{消費カロリー} = \text{METs} \times \text{体重(kg)} \times \text{時間(h)}$
実際の計算例
例1: 初心者向けラッキング
条件:
- 体重: 70kg
- 荷物: 10kg(体重の14%)
- 速度: 4.5 km/h
- 時間: 60分
- 傾斜: 0%(平地)
- 地形: 舗装道路(η=1.0)
計算プロセス:
- 速度変換: $4.5 \text{ km/h} = 1.25 \text{ m/s}$
- 基礎代謝: $1.5 \times 70 = 105 \text{ W}$
- 荷物コスト: $2.0 \times 80 \times \left(\frac{10}{70}\right)^2 = 3.27 \text{ W}$
- 速度係数: $1.5 \times 1.25^2 = 2.34$
- 移動コスト: $1.0 \times 80 \times 2.34 = 187.5 \text{ W}$
- 総代謝率: $105 + 3.27 + 187.5 = 295.77 \text{ W}$
- 補正適用: $295.77 \times 1.15 = 340.14 \text{ W}$
- カロリー変換: $340.14 \times 0.8604 = 292.6 \text{ kcal/h}$
- 1時間の総消費: 約293 kcal
通常のウォーキング(4.0 METs): $4.0 \times 70 \times 1 = 280 \text{ kcal}$
比較: ラッキングは通常の約1.05倍(ほぼ同等〜やや高い)
例2: 中級者向けラッキング
条件:
- 体重: 75kg
- 荷物: 20kg(体重の27%)
- 速度: 5.5 km/h
- 時間: 90分
- 傾斜: 3%(緩い上り坂)
- 地形: トレイル(η=1.5)
計算結果:
- 総代謝率: 約$810 \text{ W}$(補正後)
- 時間あたり: 約697 kcal/h
- 90分間の総消費: 約1,046 kcal
通常のウォーキング(4.5 METs + 傾斜補正0.48 = 4.98 METs): $4.98 \times 75 \times 1.5 = 560 \text{ kcal}$
比較: ラッキングは通常の約1.9倍
例3: 上級者・軍事訓練レベル
条件:
- 体重: 80kg
- 荷物: 30kg(体重の38%)
- 速度: 6.0 km/h
- 時間: 120分
- 傾斜: 5%(中程度の上り坂)
- 地形: 未舗装路(η=1.2)
計算結果:
- 総代謝率: 約$1,150 \text{ W}$(補正後)
- 時間あたり: 約989 kcal/h
- 2時間の総消費: 約1,978 kcal
通常のウォーキング(4.5 METs + 傾斜補正0.8 = 5.3 METs): $5.3 \times 80 \times 2 = 848 \text{ kcal}$
比較: ラッキングは通常の約2.3倍
すげぇな上級者……




