このところ食レポよりも自転車の方に熱が入りすぎているきのこ先輩です。せっかくきれいな風景でサイクリングしているなら、室内練習用のバーチャルサイクリング動画でも作ったらいいんじゃないかと思い立ちましたが、キレイな動画を撮るには結構沼が深い世界でした。

ゴールデンウィークに時間が取れましたので、岩木山のオオヤマザクラのトンネルや岩木山を一周するネックレスロードを撮影しながら走りました。DJI Osmo Action3を使ってるのですがHDR撮影が出来るようになったので早速このモードで撮影。天候も良く、桜も散り際ながら撮影日和りだったんですけど、走り終わって動画を見てみたらまぁ振動がひどくて。

アクションカメラ自体がお手軽なツールですので、どうやればうまく撮れるとかの情報もあまり多くないんですよね。ここに書いてるのはOsmo Actionだけでなく一般的なアクションカメラでも応用可能だとおもいます。調べて実験しながらまとめたものですので、皆様もなにかのご参考になれば幸いです。

ちなみにDJI Osmo Action3は2022年の機種ですが、2024時点で最新のAction4も、センサーとSDカード容量が増えたくらいのマイナーチェンジですので内容は同等だと思われます。

手ブレ補正があるのになんで振動対策?

カメラのいわゆる「手ぶれ補正機能」には2種類ありまして、

  1. 物理的な手ぶれ補正
  2. ソフトウェア処理で手ブレを無かったことにする

理想を言えば1の物理的な手ぶれ補正が最強です。物理的な手ぶれ補正は一眼レフのレンズ内補正や、ジンバルと呼ばれる電動で動くジャイロのような専用装置など、かなり複雑な機構になります。どちらもモーター駆動のためのバッテリーが必要なので大型で重量もあり、サイクリング用途にはまったく向いていません。(スタビライザーという足腰を使って揺れを吸収するアナログ機材もありますが、これもサイクリング中はムリ)

サイズや重量に制限があるアクションカメラ・スマートフォンでは2のソフトウェア処理タイプの手ぶれ補正機能を用いています。簡単に説明すると、「少し大きめに画像を撮影しておいて、直前のフレームと直後のフレームの画像とてらし合わせてブレが少なく見えるようにクリッピングして動画に出力する」という技術です。

手ぶれ補正はもともと手持ちで写真/動画を撮るために発達した技術ですので、歩行しながらの撮影などは本当に滑らかに補正してくれます。

が。

自転車やバイクなどに直接設置した場合には、逆にピンボケのように画面全体がにじんだような動画になってしまうことがあります。

この現象を指す用語がないみたいなので、以下仮に「振動ブレ」と呼びます。

振動ブレの原理

※個人の考察です。詳しい方がいらっしゃったらぜひコメントでマサカリ投げて下さい。

振動ブレが起こる原理を考察する前に、手持ちで補正をかける場合に、ソフト的にどんな処理が行われているかを見てみましょう。

手持ちのブレ補正

まずは手持ちの場合の手ブレ補正のイメージを下記の図で示します。動画のフレームレートが30fps、シャッタースピード1/60で、手のプルプル状態がおおよそ5Hzと仮定して、どのように撮影されるかを以下に図示しました。(実際の振動はこんなきれいな波ではありませんが、わかりやすくしています)

水色の帯部分はシャッターが開いて受像しているタイミング=動画の1コマ です。この間に受け取った光を静止画にして記録し、連続でコマを切り替えることで動画にしています。

手ブレの場合、振動としては周波数が低い振動と言えると思います。全体で見るとブレの幅は大きくても、1コマの間のブレは距離も短く、ある程度無視できるレベル。エッジがしっかり出るためソフト補正が効かせやすい動画ということになります。

振動ブレのブレ補正

次に、カメラ設定は手持ちの時と同じくフレームレート30fps・シャッタースピード1/60のところへ、カメラへ100Hzくらいの振動が加わったと仮定すると下図のようになります。

一コマの中に振動の山がいくつも含まれることにお気づきでしょうか。全体の振れ幅は手持ちのときより小さいのですが、1コマ内で振動で動いた像すべてを収めてしまいますので、全部のコマがブレブレ。この画像で補正をかけようにもエッジが検出できないので、ブレブレのまま動画として出力されてしまいます。

振動ブレが出る条件

高周波の振動

そもそも「ブレ補正」というくらいですので、カメラ側が想定しているのは周波数が低いゆっくりめの振動であって、機械的な高周波の振動ではないのだと思います。

振動ブレが出るのはシャッタースピード(24〜120Hzくらい)を超える周波数で、振幅が大きい振動がカメラ本体に伝わったときです。例えば金属製の定規を指で弾くと、ビーンという音(耳に聞こえる周波数)と目で見てわかるくらい大きな振幅の振動が出ますが、まさにこれが振動ブレになって映像に現れます。

路面の凹凸の突き上げ、タイヤの摩擦、ベアリングの回転、チェーンとギアの掛かり、フリーのラチェット、風の抵抗と共振……などなど、走行中の自転車ではいろんな周波数で振幅の大きい振動が常に発生しています。これらがカメラに伝わるのを防ぐことができれば、振動ブレを抑えられないだろうか?というのがこの記事の課題です。

物理的な振動対策は限定的

そもそも物理的に振動が無ければ振動ブレも発生しないんですが、通常サスペンションを搭載しないロードバイクでは、路面のこまかい凹凸や段差などの振動を車体へ伝えないようにすることはほぼ不可能です。

身体に付けるタイプのマウント(ヘルメットマウントやチェストハーネスなど)であれば肉体で振動を吸収できますけれども、後方確認するたびに映像がグリングリンしてしまうのがネック。レース動画とかならそういうのもいいんですけど、撮りたい映像から逆算すると車体直付けに限定されてしまいます。

車体直付けでも振動を吸収出来る方法はないかといろいろ試しましたが……。

  • 防振ジェルなどの緩衝材を巻いてクランプする
    • 🔺薄手のブチルゴムは無いよりマシ程度には効果あり
    • ❌️ 柔らかすぎるとかえってブレがひどくなる
  • 低い位置にカメラをセットする
    • 🆗振動自体は減らないが、ブレの幅を減らす効果はあった
    • ❌️低すぎるとサイクリング動画の感じが出ない
  • 太いタイヤで空気圧を下げる
    • 🆗大きなギャップの突き上げは減る
    • 🔺路面からの細かい振動はあまり変化なし
    • ❌️走行性能・耐パンク性に影響あり

というわけで銀の弾丸は無い模様ですが、設置位置をなるべく下げるという意味でハンドルカラムの下にぶら下げるのは効果が感じられました。RecMountってかなり合理的だったんですね。

はからずもここに。

ここまでいろいろ頑張ってみた結果が記事冒頭の動画です。ムリポ。

ソフト的な対策を考える

物理的に振動を抑える試みでは効果を実感できるほどの成果を挙げられませんでした。当初は「HDR撮影で風光明媚なサイクリング動画」を目論んでいたんですけど、ブレブレの動画だとその意味もなくなります。編集でどうにかする前提で、設定を見直してブレへのソフト的な改良を考えていきます。

振動ブレが出にくい設定とは

静止画のカメラでは基本知識として扱われるシャッタースピード。動きの激しいスポーツなどの写真はシャッタースピードを1/5000とかにして撮るとブレのない写真が撮れます。動画撮影でもシャッタースピードを速くすることで同じような効果を期待できます。さきほどの図で表すとこんな感じになります。

シャッタースピードを極端に速くすればより振動ブレは軽減できますが、シャッタースピードを上げすぎると

  • 光を受け取る時間が短くなるため、画像がかなり暗くなる
  • フレームレートが低いとクレイアニメのようなカクカクした動きに見える

というデメリットもありますが、アクションカメラの場合はオート設定でも十分に明るい条件(日中で曇りくらい)なら1/300 ~ 1/500で撮影されているようです。実際晴天なら1/1000でも露出オーバーで白っぽい絵になります。

撮影モード見直し

DJI Osmo Action3にはいろいろな撮影モードや機能がありますが、それぞれ最大フレームレートに制限があります。表でまとめるとこんな感じになります。

モードフレームレート シャッタースピード水平維持HDRカラー
HDR撮影24~30fps1/30~1/100
オートのみ
自動
ノーマル撮影24~120fps1/30~1/8000
マニュアル固定可能

60fpsまで
10bitカラー
使用可

他にもスーパースロー撮影やタイムラプス撮影もありますが割愛。

DJI Osmo Action3のHDR撮影はフレームレート30fps以下限定、シャッタースピードも上限1/100のオート設定から変更できないため、振動にはかなり弱い設定ということになります。しかしノーマル動画モードにすれば、もっと高いシャッタースピードで固定して撮影することも可能。

HDRは諦めて、フレームレートとシャッタースピードを優先してブレを消すことに専念します。バージョンアップで10bitカラー撮影が出来るようになったので、手動になりますけど編集ソフトでHDR相当のカラー調整も出来るようになっています。

(しかしこのHDR撮影モード、どういう撮影条件を想定してるんでしょうね。室内でカメラ固定のような設定ですけど、その用途には広角すぎるし……。使い所が思いつかない。)

フレームレート設定

シャッタースピードを高くする場合、フレームレートもできるだけ高くしたほうが、動画としては自然になります。前述の、クレイアニメのカクカク感を減らす効果があります(動画容量も増えますけど……)。一般的な動画ではシャッタースピードと同じか1/2にする事が多いのですが、アクションカメラの場合はカクカク感よりも優先すべき事項があります。

車体に直付けする設置方法の場合は通常のブレ補正に加えて、ダンシングやカーブでリーンしたときに映像も大きく傾いてしまいます。かなり酔いやすい映像になってしまいますので、それを防ぐためにHorizonBalancingという水平を維持した映像を撮るモードが必須です。GoProだと水平維持って設定みたいですね。

解像度2.7K以下で使える45°以上回しても水平を維持するHorizonSteadyという機能もありますが、ロードバイクではどれだけリーンしても45°以上傾くことはないと思いますので今回はスルーします。

HorizonBlancingはフレームレート60fpsまで。この機能は堅持したいので、フレームレートはMAX60fpsということになります。

意図的にシャッタースピードを上げる

アクションカメラの露出オート設定では「明るさ」に対してシャッタースピードを自動設定していて、晴天で日が当たる場所では1/1600、日陰では1/300などリアルタイムに変更されます。しかし今回は明るさよりも振動対策のための高シャッタースピードです。1/300固定でも試しましたが振動ブレが出てましたので、自動ではちょっと具合がよろしくありません。シャッタースピード固定で撮影したほうが良さそうです。

デジタル画像全般に言えることなんですが、明るすぎるとカラー補正不可でも、暗い方には結構対応範囲が広いんですよね。1/500固定にND8PLフィルターを付けると丁度いい感じです。フィルタなしだと1/1000固定くらいでもいいのかもしれませんね。

「ちょうど良さ」の判定ですけど、Osmo Action3の露出設定画面を開くと右上に「ISO」というセンサー感度の数字が出ていると思います。陽の当たる場所で白いものを画面に入れてみて、この値が200~1000くらいになるセッティングがよろしいかと。ISO100だと明るすぎ・ISO1000超えだと日陰では暗すぎになりそうです。

ISOは大きい値だと「暗い場所が撮れるけどノイズすごい」という設定です。できるだけ小さい値になるように、かつ白飛びしないくらいの余裕を持たせられるように、セッティング時にあちこちウロウロしてちょうどいいシャッタースピードを探ってみてください。

設定変更してテスト撮影

5月の朝・晴れ時々曇り・60fps・1/500 ND8フィルタ付きで撮影したのがこちら。

暗さ

NDフィルタというのは明るさを抑えるカメラ用のサングラスみたいなもので、シャッタースピードの調整に使用するアイテムです。数字が大きいほど暗くなります。

日差しのある朝だとND8フィルタを通してISO200〜400でちょうどいい感じでした。快晴の昼の撮影なら1/1000に設定変更するかND16に差し替えた方がいいくらいですね。

容量

フレームレートは倍になっていますが、ファイル容量は30fpsのときの1.5倍になりました。そのまま倍になるわけではないのが最近の動画圧縮技術のすごいところですね。

ブレ

肝心のブレはかなり無くなりました。橋の部分やマンホールなど大きな段差以外では振動ブレは無くなったように見えます。

動画の見た目

直線的なコースではこのままでいい感じがします。しかし横向きに映像が流れる、Uターンするシーンではカクカクした感じがありますね。峠のワインディングロードの下りなどでは見ていてかなり疲れる映像になりそうな感じがします。

後処理でソフト補正する

HDR撮影の説明をしてませんでしたね。

ざっくり説明すると明るい写真・暗い写真を同時に撮影して、「明るい写真と暗い写真のいいとこ取り」を合成するテクニックです。写真だと昔は三脚固定で同じ位置でシャッタースピードを変えて数枚撮ってPhotoshopで合成したりしたもんですが、スマホなどで自動でHDR合成してくれる機能もあるので一般的に使われるようになりましたね。

特に晴天時の木陰や夜景+人物などの明暗がはっきりするシーンで、影部分が真っ黒になるのを補正できる撮影方法です。同じ時間帯に撮影したHDR撮影とノーマル撮影の映像の違いを見てみましょうか。

一目瞭然ですねー、ノーマルぜんぜん映えん。(ゆうてHDRはブレまくりなんですけど)

ノーマル撮影では左手の建物の影部分が真っ暗で、壁の色と同化して柱の輪郭がよくわかりませんが、HDRの方は全体に鮮やかで、柱の輪郭もパッと見てわかりますよね。

このノーマルの映像を調整して、あたかもHDRのようにしていきます。

Davinci Resolveで色調整

食レポ動画の編集にも使っているDavinci Resolveには、「グレーディング」という動画の色調整機能があります。明るさ補正や彩度の調整、明所・暗所それぞれの色調整など写真の現像ソフト感覚で調整できます。

HDR撮影はこの辺の作業を自動でやってくれてキレイに出力できるんですけどね。編集の手間は発生しますが10bitカラーで録画していれば後処理で同様な調整ができます。

画像で書き出してますがこれをリアルタイムでプレビューしながら調整できます。これで無料とかDavinciマジ神。

AfterEffectsでコマ補完(ピクセルモーションブラー)

スロー再生にしたときにカクカクしちゃうのを中間フレームを生成して補うのもコマ補完って呼ばれますけど、今回やりたいのは「前フレームと比べて速く動いている部分をブレさせる」というエフェクトです。ゲームの設定で「モーションブラー」って呼ばれてるやつです。

写真編集の王道がAdobe Photoshopなら動画編集ソフトは同じくAdobeのPremiereなんですが、Premiereには動画のコマ間のモーションブラー機能はないみたいです(有料プラグインではあるらしい)。代わりにAfterEffectsにピクセルモーションブラーという名前で、同様な機能があったので試してみました。時間の都合で別日の動画です。

なかなか自然になったんじゃないでしょうか?大きく動いた部分では不自然なところもありますが、概ねキレイな感じ。

しかしこの機能、めっっっっっっちゃくちゃ時間がかかります。

設定とか画質とかにもよるのかもしれませんけど、1分20秒の動画をレンダリングするのに8時間かかりました。14世代i7でRTX3060を積んでるミドルグレードのマシンなんですけど、そもそも編集中のプレビューでも1コマ5秒くらいかかります。これは現実的じゃないですね。

Davinci Resolveでコマ補完(モーションブラー)

AEではヤバみな時間がかかるピクセルモーションブラーですが、Davinciの方はカラーページの「モーションブラー」という機能で同様な処理が可能です。こちらは有料版のみの機能なのですが、無料版でも透かし入りで効果を体験できます。

ということで、AEで補正したのと同じ素材で、色補正・モーションブラーを加えて書き出したものがこちら。

かなりいい感じです。編集もほぼリアルタイム編集で、レンダリングも2分弱。えーと、Adobeさん?

でもDavinci Resolve、有料版は5万するんですよね。5万かぁ……💸💸💸💸💸

コマ補完って必要?

コマ補完する前提ならフレームレートも30fpsに設定できて容量的にもエコなんですけれど、AfterEffectsにしてもDavinci Resolveにしてもコストは掛かります。(AEは時間も)

他所のYouTubeチャンネルなどでみていてもコマ補完はあまりしていない様子なんで、つくる人も見る人も、そんなに気にしていない様子。今のところは補完なしでいいかなと思っています。

Davinciの有料版はこれ以外にもすごい機能があるので余裕があるときに購入するということで……。

今後試してみたいもの

予算の都合などで試しませんでしたけど、物理的な振動対策はまだまだ改善の余地がありそうに思っています。

防振ゴム

硬質ゴムから雄ネジが生えている、固定と振動吸収を同時に行う部品です。大型機械の固定などに使用されるようです。世の中にはこんなものが存在するんですね。。

断面図はこんな感じ。

中央に生えるネジはゴム部分を貫通していません。全ての振動がゴム部分を通過する構造になっているため、かなり防振効果が高いものと思われます。アクションカメラの重量なら600円くらいのものが使えそうで、コスパもそれほど悪くないです。

しかし問題がありまして、クランプもGoPro台座もカメラ用のインチネジで、防振ゴムはJIS規格のミリネジのものばかり。カメラ用インチネジの市販製品が存在していない模様です(アメリカの防振ゴムメーカーでインチ規格のカタログを見つけましたが、小売はしていないっぽい)。インチ/ミリネジを変換するアダプターもありますけど、ネジが増えれば振動源も増えそうなので今回はパス。どこかでインチ規格のものが手に入ったら試してみたいですね。

Insta360用 振動ダンパー

360°撮影ができるアクションカメラ、Insta360シリーズには純正品の振動ダンパーがラインナップされています。

https://store.insta360.com/product/vibration_damper

ボックス内部に6個のスプリングが内蔵されていて振動を減衰できるそうなんですが……。

高さが増えてしまうので振幅が増えてプラマイゼロじゃないか?という想像と、このシュー1個で7,800円はちょっと悩む金額です。メルカリとかで安く手に入ったら試してみたいですが。

RecMount

みんな大好きRecMount。そこそこお値段するので候補に入れていませんでしたが、なんか最終的に同じ位置になったので、それであれば専用設計の方が安定するだろうしクランプのネジ部が邪魔にならなくてよいかなと思えてきました。

ポリッシュカラーもあればいいんですけど、黒しか無いんですよねー。研磨しちゃえばいいのかな。

カーボンフレーム

それができれば 苦労はしねェ!!!

でも確実にスチールバイクより振動は少ないはず。